ACT/1
「InCOMING DARKNESS」

それは序曲。
彼の始まりの一ページ。 
その日はいつもと少し違った。
まあ、ついてないって言えばいつものことだけど。
でも、それとはまた少し別に――……
日常は滞りなく流れていく。
彼には居場所があった。
だけどそれはほんの少し食傷気味の、退屈な日々。
これでも一応ものはわかるほうだと思ってる。
だからさ、大体予測はしてたんだ。災難があるってのは。
……いや、冗談じゃなしにさ。
夜の奥に、憎しみを湛え、形を持った闇になった男を幻視する。
……本当の厄日だ、ちくしょうめ。
忘れてしまえばいい。
もう終わった話なんだから。楽しい記憶で、上から塗りつぶしてしまえば。
あいつらと遊んで気を晴らした帰り道。
悪夢はおしまい、続きはなし、そんな都合のいいことを考えてた。
いまさらになって、少し思う。
天災は忘れたころにやってくるっていうなら。
無理に忘れようとしたのは、逆効果だったのかもしれないと。
――それは。
忘れられない、出会い。
九月、まだ風冷め遣らぬ夏の熱気の残滓の中。
おれは、彼らに出会った。
何も知らないでいたことを知る。
つまり、この夜はそういう時間だったのだ。
降ってわいたような言葉に、おれは大いに動揺した。
ここまできたら大吉も大凶もない。
果たしてこれはどっちなんだろう、運がいいのか、悪いのか。
いつかどこかの知らない場所で。
男と女が、言葉を交わす。
考えるのは面倒だ。
そしておれは面倒が嫌いだ。
だっていうのに、この上おれに何かさせるつもりなのか、神様。
そりゃまあ、面倒事って切り捨てるつもりはない。
けど、時期の悪い話だ。……ああ、神様、おれはあんたが嫌いです。
備えあれば憂いなしなんてよく言うが、
近頃のおれは備えてても憂いばっかりなんだ。
そんなこと言ったって、しょうがないのも判ってるけどさ。
多分、始まりの終わり。
――変わらない日常。
そして、終わらない夜。

 

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