【仮面ライダーになりたかった戦闘員】
interlude-2
大事なコトもわかるだろう?
時には勇者にでもなれるんだ
派手な音を立てて誰かが吹き飛ぶ。数mを滞空してそれから地面に叩きつけられるほどの破壊力のパンチ。
この肉体を持ってしても幾度も食らえば危険であるだろうライダーの一撃を食らって吹き飛んだのは、この間杯を交わしたばかりの後輩だった。
思わず声が漏れそうになる。
だが、そちらに首を向けることすら今は許されない。
目で吹き飛ぶのを追っただけ、それ以上にしてやれることがない、その事実に歯を食い縛りながら、俺はもう少しで倒せたはずのライダーを見据えた。
俺を守るように走り出す戦闘員があっという間に蹴散らされていく。
一歩でも早く、満身創痍のライダーに近付いて止めを刺してやらなければならないのに、この期に及んで俺の足は震えていた。
ジンクスを覚えている。
改造されたものは、改造手術を受けたものは、その後一週間の内に皆死んでいくものなのだと。
バカな、と笑い飛ばしたかった。自分にはそれは当てはまらないと虚勢を張ってやりたかった。
だが、しかし。
震える足は、今まさに、そのジンクスが来る事を予感している。
全力で距離を埋めにかかって数秒も経たないうちに、何かが風のような速度で満身創痍のライダーと俺の間に立ち塞がった。
動きを止めざるを得ない。
赤い複眼が、闇に漏光してこちらを睨みつけてくる。その後ろで、疲労しながらも油断のない構えで先ほどまで戦っていたライダーが立ち上がった。
その目は、二人が二人共、守るべきモノを知っている「正義」の目。
燃えるような赤色が二対、俺を貫く。
地獄の業火みたいに熱い闘志がこちらにひしひしと伝わってくる。
――本当に認めたくはないけれど、震えた足の予感は、どうやら正しいらしかった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
状況は最悪。一対一でも損耗を覚悟しなくては倒せなかった相手が二体。
ここに来て実力差はまさに逆転、最早及ぶべくもないだろう。死神は俺が堕ちるのを今か今かと待ち望んで、この首筋に鎌を当てる。
正直に言えば、踵を返して何もかも捨てて、ここから飛んで逃げて行きたい。
けれど俺には翼はないし、この体はドクターの最高傑作で、俺の後ろには俺を守ろうとしてくれた何人もの兵士がいる。
そして何より。百獣の王は、背を向けても膝を折ってもいけないものだ。
だから、ぶつかり合った思考の軋轢を有らん限りの声に変えて、俺は叫んだ。
吼える、吼える、吼える。
今叫んだこの声が、きっと最後の勇気になる。
……護りたいものは何だっけ。
後輩を。 仲間達を。 ドクターの誇りを。 ドクターを。
俺はドクターの最高傑作だ。
最後まで……ドクターの誇りとして、戦い続ける。
ライダー達に護りたいものがあるように、 俺にも護りたかったものがあるから。
牙を剥く。
俺が何かに報いる為の、最後の戦いが始まる。
最後の勇気を自分の中で纏め上げる。
小さな小さな欠片みたいな勇気。
この臆病な心を、小さな勇者に変えるための剣。
俺は吼える。途切れない咆哮が僅かなりともライダーの足を鈍らせると信じた。
この爪よ、まだ折れるな。
この牙よ、最後まで抗え。
俺は、グランドライオンだ―――!!
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