【仮面ライダーになりたかった戦闘員】
-第十一話-
don't know what, what you say
――無視しないで 聞いて
「とおッ!」「はぁっ!!」
――俺の右手は土を掴み、それきり。
「がぐゥッ、 アアアアアアア……!!」
重なるライダーの声と、金属板がひしゃげるような打撃音が響き渡る。
一人目が音速に迫る勢いで先輩の胴にパンチを打ち込む。 くの字に折れ曲がる先輩の巨体が、次の瞬間には反り返った。 背中から、もう片方の打撃が決まっている。
二人揃ったライダーの攻撃はまるで瀑布か嵐か、加減を知らないように加速していく。
二対一。 ――こうまで、こうまで届かないのか? 圧倒的すぎる。
先輩は爪を振り翳し、果敢に応戦する。
だが、嵐を掴むことは出来ないように、霞を斬り裂くことはできないように、光る爪がライダー達に当たることはない。
あれだけ頼もしく見えた巨体が、劣勢のあまり、風雨に晒される柳のように細く見えてしまう。
俺にだってわかる。
この戦いに、もう勝機はないのだと。
……やめろ、やめてくれ、先輩を――それ以上、痛めつけないでくれ……!
砕けるほどに歯を強く噛み締める。
起こそうとしても体は起き上がらなくて、手は土くれを掴むだけ。
首だけ向けるのが精一杯の状況。
訴えても祈っても、神様には届かない。
ライダーの攻撃もまた、止まらない。
全身が訴える危険信号に構わず、身を起こそうとあがくその刹那――
ふと、先輩の声が、聞こえた。
『……お前のシリアル、これで合ってたよな?』
合ってます、合ってますけど――
……回答しようとして、気付いた。
声は送信専用の回線で届けられていた。
つまりは向こうからこちらへの一方通行。
会話をする意思はない……と言う事なのか?
そう考える最中にもまた轟音。
先輩の身体が、僅かに浮く。 ライダーが下から打ち上げ気味のショートアッパーを放ったらしい。
金属塊を整形するときのような――或いは破砕するときのような、重厚な音が採掘場を駆け巡る。 飛び散る先輩の身体の破片。
既に、先輩はガードすらしていなかった。
腕を上げる事すらままならなくなったのだろうか?
両腕はだらりと垂れ下がったままの棒立ち状態。
そんな先輩の目線と俺の視線が、一瞬だけ、確かに重なった。
……通じている事を確認するように先輩は頷く。
『遺言って奴だ。ええと……そうだな。
とりあえず、こいつらを恨むなよ。こいつらは俺達と違って、大概の奴が無理矢理改造されたんだ。それに、お前が挑んだって死ぬだけだ』
先輩のボディが亀裂だらけになっていく。
ひび割れは死を連想させた。 暗く覗く亀裂の隙間、そこから先輩の命が流れ出していくような幻視をする。
声が出るのなら、俺は思い切り叫びたかった。
けれど、強打された胸はいまだに空気を拒む。 小さく、死んだような呼吸を繰り返すので精一杯。
先輩はどこか自嘲するような風に、続けた。
『……それに、な。こいつらはきっと…… 俺達の大切だった奴らを守ってくれる。きっとな』
次の瞬間。
先輩の巨体がぐらりと傾いだ。
そのまま地面と水平になり――下には先輩をリフトアップした二人のライダーがいる。
目配せだけでタイミングを合わせ、二人のライダーは先輩を天高く投げ上げた。
巨体が、星空へ舞いあがる。
「行くぞ!」「おおっ!!」
それを追うライダー達。
紅い眼は光条となり、二筋の光と化して巨体を追いかける。
『……お前はお前でいろ。――ああ、そうだ。俺の名前……言ってなかったな』
長い付き合いだってのに、と先輩はいつかと同じ様に笑って、――死を目前にしているのに、笑って。
「ライダアァーッ!!」
『ケイ。蛍って書いて、ケイっていうんだ』
「クロス!!」
『女みたいだろ。よくからかわれたよ、昔な』
「キィ――――ック!!」
『はは――』
閃光が、採掘場を照らす。
どんな花火にも真似のできない、紅蓮の爆発が巻き起こった。
赤く、毒々しいまでに美しく、一瞬だけしか咲かない命の花だった。
夜空に咲く華の中に、俺は先輩の姿を捜す。
それがどんなに無駄で、無意味な事だと判っていても――
最後まで膝を折らなかったあの人の姿を、探さずには、いられなかったんだ。
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