【仮面ライダーになりたかった戦闘員】
-第七話-
俺はきっと普通の日々から
貴方を思って 唄を歌おう
珍しく、仕事のない非番の日だった。
特にする事もなく自室でごろごろとしている昼下がり、何度目の寝返りだったか判らないけれど、ふっとカレンダーが視界に入る。
こんな仕事をしてると曜日の間隔が不安定になって困る。日付をふっと思い出して注視すると、毎週の火曜日についた赤丸が、週に一度の定例行事の訪れを告げていた。
「――しまった。五時までに出さないと、届かない」
別に誰に言うでもなしに呟いて起き上がり、のそのそと机に向かう。
机の引き出しから仕事にも使うタフなボールペンを出して、シンプルで温かみのあるクリーム色の便箋をひらりと一枚捲り取った。
かちりとボールペンのペン先をノックして出すと、取り出した便箋にに文章をしたためる。
ここに着てからもうずっと、長いこと習慣付けて来たことだ。宛先はいつも唯一。
血の繋がらない―――けれど、一番大切に思える家族へ。
俺はいつも彼女を勇気付ける為、そして自分がここにいる理由を確認する為、手紙を書いている。
手紙の向こう側の彼女が少しでも明るい顔をしてくれれば、それを力にして俺はまた歩いていける。長いこと見ていない義妹の顔を思い出しながら、ペンを走らせた。
『元気にしていますか。
兄ちゃんは元気です。お金が届いてるのがその証拠です。
今、兄ちゃんは遠い国で、難しい仕事をしています。
後3年は日本に帰れません。兄ちゃんが戻る頃には、退院出来てると良いね。
兄ちゃんも、頑張ってるから。 辛くても頑張るんだよ。』
いつも自分の仕事の内容を明言できないのが辛い所ではあるが、それもまた仕方のないことだろう。明言できることでは決して無いし、仮にもし言えたとしたって優しいあの子はそんなことはやめて、って言い出すに決まってる。だから、この仕事に就いているのはずっと秘密だ。
話せる範囲での近況を書いたり、又聞きした他愛ない話を二つ三つ付け加えると、便箋の上はそろそろ満杯になっていた。 すっかりと慣れたもので、今では書き始めに詰まる事も、筆が止まる事も滅多にない。
『――それでは。また手紙出します』
書き上がりにふむ、と息を漏らしてペンを置く。緊張させっぱなしだった手先の力を抜き、肩を回して目元を解した。
封筒に手紙を入れ、いつものシールを手元に引き寄せる。
書き終わった手紙を暫し眺めて、息を吐く。 ――毎度思うけど、この手紙ってちゃんと届いてるんだろうか。返事は帰ってきた試しがない。住所を伝える事もないから、当たり前なんだけど。
まあ―――例え手紙が届いてなくても、ちゃんと入院費は組織が払ってくれてるだろう。毎度死にかけてる分の甲斐はあるって信じたい。通帳の残高から、きちんと入院費は落ちているんだし。
そんなことをぼんやりと考えながらシールを台紙から剥がそうとしたとき、手紙に記す近況に付け加える一言を思いついた。今日書こうと思ったことは、すぐに文章に起こさなくちゃいけない。
来週も同じように手紙を書けるなんて限らないから。
シールを張る前に気付けてよかった、少しだけ焦りながら封筒を逆さにして振る。かさりと落ちた便箋の一番下に、小さな字でほんの少しだけ文章を付け加えた。
「追伸。最近兄ちゃん、ちょっと気になる人が出来ました。まる」
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