【仮面ライダーになりたかった戦闘員】
第三十六話
Ah 全てが終われば良い 終わりのないこの夜に
夢を見ている。
何故だか、それが夢だとわかった。どうして自分がこんな夢を見ているのか、それは判らなかったけれど。
ざあ、と風がそよいで俺の前髪を揺らしていく。
果てしなく続く草原、青々とした揺れる草。日差しと、むっとするような草いきれの中だった。若葉の匂いがする。
空は蒼く、晴れ渡り、雲の欠片がちぎれた様に所々に。
見渡すと、そんな中。
ポツリと立った一本きりの木が見えた。
その下――木の高さの半分にも満たない場所に、小柄な影が見える。
なにか呟くような声が聞こえたから、俺はとりあえず、その子に向けて歩いてみた。
――ろぉーく、しぃーち、はぁーち――
その子は、数を数えている。
多分かくれんぼの鬼なんだろう。
俺も、随分昔にやったことがある。何人かで集まって、日暮れまで駆け回って。
見つかった、見つからなかったで一喜一憂して、そんな風に無邪気に過ごしたころがあったと、漠然と思い出す。
足音に気付いたのか、彼は俺が話しかける前に、数えるのを中断して振り向いた。
目はビー玉のようにきらきらと光り輝いていた。その瞳が、不思議そうに俺を見上げる。
屈みこむ。目の高さを合わせる。
暫く、喉が詰まったように言葉が出てこなかったけれど、問いかけることは決まっていた。
それが何故だかはわからなかったけれど、聞いておかなければならない気が、した。
「大きくなったら何になりたい…?」
男の子は屈託なく笑い、答えた。
その答えは俺にしか聞こえず、俺以外に聞こえる意味も無かった。
そうだ。
忘れてた。
俺は、なりたかったんだ。
それこそ、ずっと昔から。
男の子が「もう良いかい」と、言うと、草原の向こうから、微かに声が聞こえた。
――まあだだよ――
男の子は、また数を数え出した。