【仮面ライダーになりたかった戦闘員】

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  第三十五話  

いつまで生きていられるかなぁ いつまで生きていてくれるかなぁ












 バイクの音が走り去る。
 あのころと同じように。
 無慈悲でいつも遠かった、遠ざかるエキゾースト・ノート。
 鉄馬の叫びが消えていく。
 俺の視界には、灰色の天井しかなかった。
 去って行く彼らに一瞥をくれることさえも億劫だった。
 身体機能はほぼ全部が止まっていて、最後に残った左手の指先を動かすのにさえも全力を使わねばならなかった。
 生き汚い身体だ。――こんなになってさえ、まだ生きている。 
 少しだけ、他の連中の状態を感じ取ろうと目を閉じてみる。戦う前までは明確に感じ取れていた筈の、他の五人の反応が消えていた。俺は――ついに、あの連中の中での、ひいてはドクター作の怪人の中の最後の生き残りになったらしい。
 身体を真っ二つにされたせいか、あんなに熱かった体は、今度は逆にひどく冷たくなってきていた。
 千切れた右腕の途中から、千切れた腹の断面から、ひび割れた身体のあらゆる部分から、骨も凍るような冷たさがしみこんでくる。……凍えるほどに寒い。身体を濡らす血からは、無慈悲な死の匂いがした。
 あのまま暴走していれば、俺は爆発してあの場で死んでいただろう。
 皮肉な話、結局はライダーに延命させられたようなものだった。
 けど、こんなのは無意味で、乾いた時間だ。
 彼女が隣にいない時間を、これ以上、長く過ごしたくない。
 首もとのバンダナ、血染めのそれに、手をやる。
 だが、触れるはずのごわついた布の感触はない。
 気付けば、しっかり巻いていたはずのそれは、俺の左手から三十センチメートルくらいの位置に落ちていた。
 たった三十センチ。
 伸ばしきったてのひらの先に、あのバッジが笑っているのに。
 全力を込めて伸ばしているのに、届かない。
 身体は動かず、右腕はなくて、伸ばした左手で地面を掻いても、少しも距離は変わらない。
 ああ、それが、もう彼女に会えないことを象徴しているみたいで、自分でもわかるほどに表情がゆがむ。
 ――いつか、思った。「腕が無くなっただけで良かった」なんて。
 そんなの、今の俺には冗談にだってなりゃしない。
 俺の腕は、大切なものを抱くために、大事なものを捕まえておくためにあるはずだったのに。

 必死に、届かないバンダナに手を伸ばす。
 そうしていたとき、不意に――声が響き渡った。

『ハッハッハ。よくぞここまで来たライダーの諸君――』

 ああ、ライダー達はもう司令室へ着いたんだな。
 それが判りやすく、こうやって放送されている――結論は、たった一つだ。

『ここは既に放棄した。壊滅した全ての組織を集め、我は最終結社を生み出す。だがもう君達と逢うことは無い。ここは後僅かで爆発するのだからな――』

 ……そんな事をしたって無駄なのに。
 ここで全てが爆発しても、ライダーは、多分、何事も無かったかのように生き延びるんだ。
 彼らは強い。戦った俺が知ってる。強かったんだ。

 ――俺と違って。



「もう」 
         俺は
                「いい」
                         死ぬ。
                                 「かい……」

 ぱたり、バンダナに届かせようとしていた手から力を抜く。
 ああ、神様。
 こんな俺を見て、今頃大声で笑ってんだろう。
 あんたなんて、こんな最後の最後までやっぱり信じられないけど。
 俺は何人もの命を奪って、殺して、屍の上に立って、この上まだ身勝手な事を言うけど。
 ――彼女は、何も、本当に何も悪くなかった。
 だからお願い。
 最期のお願いをさせてくれ。




 彼女がほんの少しでいい、
 俺のために泣いてくれたその後は、

 いつか俺を忘れて、
 誰かに微笑む日が来ますように……。
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