【仮面ライダーになりたかった戦闘員】

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  第三十話  

特別じゃないその手を
特別と名付ける為の光











「俺は」
 散りかけた閃光の中から一歩踏み出す。
 まといつく光が霧散し、俺の表面に蒸着した装甲を残して消えていく。
 腕を下ろし、正面を見据える。
 無言のライダーたちの前に身を晒す。もう、震えはしない。


――『俺達は』


「お前達に」
 体の内側が燃え上がっているような感覚。ただひたすらに、心臓で炎が渦を巻いているように熱い。
 今ならばそれこそ、彼らと対等な位置で戦う事が出来る。
 もう俺はただの戦闘員じゃない。
 いろいろなものを失ってここまで来た、一人の戦士。


――『なれずに』

「倒された同胞達の」
 もう一歩だけ踏み出す。
 ライダーたちが気圧されたように一歩下がる。
 俺は、全てを抱きしめていたかったのに、何も守る事が出来ないままで、ここに立っているから。
 ――ああ、せめて、あの楽しかった思い出だけは抱きしめたまま。
 ここより後ろに彼らを通さないために、ただそのためだけに、なけなしの牙を剥き出しにする。


――『想いと』


 さあ。
 俯いていた顔を上げる時だ。
 仮面ライダーたち、そのひとりひとりの顔を睥睨し、宣誓する。

「……その“骸の上に立つ者”……」

 小さく息を吸い、呟きよりは大きな、通る声で、名乗りを上げた。

「――――『スカルライダー』」

 七対一。
 圧倒的、絶望的なパワーバランスだった。きっと、目の前のそいつらが潜り抜けてきた死線にも劣らない。
 あいつらが負けられないのと同じように、俺も負けられはしない。背負ったすべてを裏切らないためにも。
 向こうにも理由がある。こっちにも理由がある。
 そして両方がそれを曲げられない。
 なら、ぶつかり合うより他にない。
 ――だから名乗りを上げたなら、それ以上立ったままでいる道理なんて無かった。
 間をおかずに前傾姿勢をとる。体重の九割を爪先に乗せ、踏み込む体勢を作る。
――『あたしはキミが好き』――
 脳裏に聞こえる、彼女の声。優しい記憶。取り戻せないもの。
 ――ごめん。
 もっと好きだって、大好きだって、言えるなら何度でも言いたかった。
 今日まで、ずっと、言える限り言ってきたつもりだった。
 いつも一緒にいて、たくさんのことを話し合った。面映さを感じながら腕を組んだ。くすぐったいねって笑いながら身を寄せ合って、この幸せが続けばいいと思いながらキスをした。精一杯に、大切な現実を抱きとめていたつもりだった。
 ――でも今思い起こすと、それでも足りなかったって思う。
 頭から、少しずつ彼女の顔を消していく。
 胸を刺すような想いを抱えていたら、膝が砕けてしまいそうだから。
 
 ねえ。
 ――こんな事を思ったって届かないって判ってるけど。
 時間が来たから、
 行って来るよ。
 
――待ってなくて、いいから――

 思考はそれで最後だ。
 冗談みたいな大きな音を立てて、踏み込んだ足が地面をたわませる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
 七人がそれぞれ、迎撃の姿勢を取る、それを見ながら俺は吼えた。 
 なけなしの強がりを、精一杯の虚勢で塗り固めて……祈る。
 願わくばその強がりが、現実の強さになりますように。

「……行くぞ、仮面ライダー……!!」

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