【仮面ライダーになりたかった戦闘員】

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  第二十二話  

 自分でも情けない顔をしていると分かるくらい、その時の俺は未練タラタラだった。
 出発時刻は間近に迫っている。単身赴任前の夫の気持ちになりながら、俺は彼女がなにやら包みを取り出すのを見詰めていた。
「はい、じゃあこれおべんと」
「うん、ありがと……」
 いつもなら輝かんばかりの笑顔で受け取れるのだが、今日は少し勝手が違う。遠出する必要が出てきてしまったのだ。
 両手で持って差し出される大きめの包みを受け取って、大切に抱え込む。
 全く、何だってこんな時に。だとか、俺たちの代わりに別の部隊を向かわせればいいのに。だとか……口から出てくるのは愚痴ばかりで、彼女と離れたくないと言う一心だけが頭の内側で燻っていた。
「うん……ああ、嫌だなあ。泊りがけなんて。なんで別の支部に俺達が物資を届けたなきゃいけないんだよ……」
「ほら、ぼやかないのー。愚痴を言ったら幸せが逃げるよっ。あと、溜息もだめー」
 暗澹たる気分の俺を鼓舞するみたいに、彼女は両拳を握って、猫背がちになる俺の肩を叩いた。
「うう、俺がいない間に浮気なんかしちゃだめだよ?」
「あはは、しないよっ」
 どうしようもないような台詞を吐くと、それさえ彼女は輝くような笑顔で否定する。
 なんだか嬉しくなって、冗談交じりに続けて問う。
「絶対?」
「うん、ぜーったい」
「絶対の絶対?」
「ぜったいのぜぇーったい」
「絶対の絶対のぜっ―――」
 ぐあしッ。 
 ふと琴線に触れて始めた益体もない問答の途中、俺の首にごつい腕が巻きついた。
 彼女が驚いたような顔をしている。
「だあ、やっぱしここにいやがった!おらお前のせいで俺らの班遅刻扱いだぞ!」
 振り向くまでも無かった。同僚がノロケはもう要らんといわんばかりの剣幕をつくり、俺の首をギッチリと腕でロックしている。
「なんだよ、もうちょっとくらい良いだろ、二日も逢えないんだぞ?!」
「何バカな事言ってやがるこの色ボケ! お前の所為で仕事が増えるのは我慢ならん! おら歩け! さっさと歩け!!」
 抗議は二秒で却下された。
 腕力で勝る同僚にそのまま俺は引きずられるように歩き出す。
 残念ながらこれ以上の我侭は効かないらしい。仕方なしに、俺は彼女に手を振った。もう片手でしっかり弁当の包みを握り締めて。
「ぐう…………うう、いってきまぁす」
「い、いってらっしゃい……」
 やや呆れたような感じで手を振る彼女が、閉まるドアの向こうに隠れてしまうまで、俺はずっと見詰めていた。

 ――その時俺は、この別れを「いってらっしゃいのキスが出来なかったなぁ」程度にしか考えていなかった。
 これから何が起こるかなんて想像が付かなかったし、任務はつつがなく終わって俺と彼女はまたすぐに会えると思っていた。
 ……遠ざかって行く彼女との距離は、本当に一時的なもので――またすぐに縮むものだと思っていたんだ。



――ああ、それは。

どんなに短くても ときめいた日々――
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