【仮面ライダーになりたかった戦闘員】

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  -第十八話-  

あなたと私 見つけた午後はマスカット













 食堂はいつもと同じ様にざわめいている。まばらに埋まった席の中、空いた一列に新たに二人の戦闘員が身を寄せた。がちゃん、と若干乱暴に同じA定食をテーブルに置く。
 椅子を引いて腰を下ろし、二人同時に割り箸をぱきんと割る。仕草の端々にどこか投げやりな感があった。
 何に由来するものやら、彼らの周囲には負のオーラとでも呼ぶべき、やるせなさと怒りが混ざったような気配が渦巻いている。それを嫌ってか、一列隣の戦闘員が別の席に避難していった。
 哀愁というには若干強すぎる悲壮感である。
 列には三人で並んでいたことを見るに、彼ら二人には、もう一人同伴に預かるはずの戦闘員がいるはずなのだが、どういうわけだか彼らはそのもう一人を待たずに、さっさと食事を始めた。味噌汁を啜り、ほうれん草のおひたしを咀嚼する。そして主菜、豚肉の生姜焼き。柔らかい豚ロースのスライスが、甘辛いタレと絡んで舌の上で踊るその味わいと来たら絶品である。舌鼓を打って然るべきの飽きない美味さ――のはずなのだが、それに箸をつけてもやはり、二人は口を開かずただ黙々と食っていた。
 やがて、黙々と食事を続ける二人の後ろに足音が響く。二人は同じようなタイミングで咀嚼を止め、軽く顔を見合わせ、それから計ったように同じ動作で食事を再開する。
 近づいてきた足音の主が、うきうきとした手つきでトレイをテーブルに置き、軽い身のこなしで椅子に腰掛けた。その軽快さときたら、隣の二人の発する重苦しい空気をまるで感じていないかのようだ。
「いやー、ごめんごめん遅くなって」
「「……」」
「なんか俺のカレー遅いなーって思ってたらさ、カレーコロッケ揚げてたみたいでさー? 俺がいくらトンカツ嫌いだって言ったってカレーコロッケカレーってなんだってんだよなあ? まったくもう参っちゃうよ、あはははははははははは」
「「…………」」
 ここ数日間、食堂では場所を変え時間を変え、この調子のノロケが聞こえてくる。毎日同じ時間に食事をする二人は当然のように近くで、この恋する男の幸せオーラを浴びる羽目になるのである。
 あの二人はその間、ドクロの下の表情を石膏像みたいに固めて過ごしているのだろう。
 ――無論、幸せな男はそんなことには気付かない。
 恋とは斯くも人を盲目にするのか。遠巻きに一部始終を見ていた戦闘員は長く溜息をついて、ラーメンのどんぶりを持ち上げた。最後のスープを飲み干す。……遠くから聞こえる会話は、相変わらず不幸せと幸せのツートンカラーだった。
「この生姜焼き美味いなあ」
「味噌汁も中々だぞ」
「あれ、どうしたんだよ二人ともあははははは」
 改善の様子、まるで無し。
 肩を竦めて、遠くから見ていた戦闘員は立ち上がった。スープを飲み干したどんぶりをトレイに乗せて背を向ける。
 ――いや、全く。人死にが出ないことを祈るのみである。
 ああ、まるで見えるようだ。あの不憫な二人の呪詛が。

(( 怪 人 に な っ ち ま え ……!!))

 Amen!
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