【仮面ライダーになりたかった戦闘員】

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  -第一話-  

 物語の始まりはそう
 なす術のない 僕らが主役











 ぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉん………… ぅぉぉぉん……

 バイクの音が走り去る。
 悪夢の立ち去る音だ。聞くのが何度目になるのかは、数えるのもバカらしい。

 尾を引いて遠くに離れていくバイクのエキゾーストノート。
 音がどんどんと歪んで鈍くなっていく。
 それが聞こえると言う事は、俺はどうやら生きているらしい。
 閉じていた目を、ゆっくりと開けた。
 きちんと目を開けられた事にまずホッとする。

 体中が痛い。自分の体を見て確認するのが怖いくらい。
 あまりにも静かだったから、周りを見るのも嫌だった。
 何もかもを避けて逃げた視線は体を避けるみたいに自然に上に行って、――視界に広がる星と、月と、空。
 こんな夜なのに、空は皮肉るみたいな晴れで、星がいつもよりもずっとよく見えた。
 今日の相手は誰だったっけ。バイクが喋ってた奴だったっけ。
 ……まあ、今となってはそれももうどうでもいい話だ。終わってしまった時間は、戻ってこない。

 ゆっくり、ゆっくり右手で体を起こす。
 気を抜いたら壊れてしまいそうだ。
 目を閉じて立ち上がることさえ難しかったから、必然的に周りが見える。
そこには、いつもと同じように死屍累々と仲間達の死体が転がっていた。
 どいつもこいつも、生きているために必要な部分が欠損したり欠落したりして、見る影も無い。
 首がない奴だって当然みたいにいたし、手と足と首が揃っているなと思ったら、胴体の真ん中に大きな穴を開けている奴もいた。
 終わってしまった時間は、戻ってこない。
 それと同じで、失われた命もまた戻ってこない。
 生き残っているのは俺だけで、それが奇跡みたいに思えた。

 立ち上がろうとして身体を捩った瞬間、電撃より速く駆けてくる激痛と目の前でフラッシュを焚かれたみたいな幻視。一瞬だけ、気が遠くなった。チカチカと、ズキズキと、俺の脳髄を侵す雑多な不快感。
 その根本は左手だった。痛みっていう危険信号をがなり立ててくる。
 骨くらいどうにかなっていてもそりゃおかしくないけれど――僅かな呻き声を漏らして、原因を探るために視線をやり―― 

 そうして俺は、ああ、と諦念した。

 どうやら、五体満足じゃないのは死んだ仲間達ばかりじゃなかったらしい。痛いと思ったら、道理で左腕は肘から下が取れていた。
 溜息をつく。我ながら辛気臭いくらいに沈んだ溜息だ。 
 尤も、明るい溜息なんてものは聞いたことがないけれど。

 大丈夫。 これくらいなら、いつものことだ。
 もっと酷い目に遭って生きていた事だってある。
 そう自分に言い聞かせて、俺は死体たちの狭間に眼を走らせた。
 死んでいる、二度と動かない骸骨の群れの狭間。
 汎用戦闘員「ドクロイド」たちの死体の間に、見慣れないアングルで転がる自分の腕を見つけた。
 歩み寄って、右手でそれを拾い上げる。
 頭がどうにかなりそうだった。
 転がっている彼らと俺を分けている境界線は、凄く曖昧。
 画一的な姿をした戦闘員。
 転がっている彼らは死んでいて、立っている俺は生きている。ただそれだけ。

 それでも――この現実を受け入れていても――腕を拾い上げて、立ち尽くす段になって感じたのは、何よりも大きな安堵だった。
 ……ああ、今日も生き残ることが出来た。
 こうして死ぬような目に遭うことには慣れてしまったけれど、それでも死ぬのは嫌だった。 だって俺には、生きていくための理由があるから。

 戦闘終了を感知した組織のトレーラーが回収に来るまで、もう暫く時間があるだろう。
 それまでの僅かな時間を、俺は白かった――今は紅い――骨達の中で、
たった一人で、立ち尽くす。


……バイクの音は、もう聞こえなくなっていた。
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